拓馬篇前記-拓馬1 - 木瓜咲く

拓馬篇前記-拓馬1

2017年10月6日金曜日

拓馬 拓馬篇前記

 寒い時期だった。気軽に外を出歩くには時期尚早。遊びに出かけるとしても快適な場所を求めるのが人情だ。その思いはなんぴとであろうと尊重されるべきである。だが──
「申しわけないが、よそへ行ってもらえるか? ほかの客がキミたちをおそれているんだ」
 毅然とした態度の男子高校生が言った。呼びかけた相手は同年代の男子。他校の制服を着た、不良然とした男子三人だ。彼らはデパートの飲食コーナーにて乱雑に椅子と机に座っている。その行ないが常習化してから数ヶ月が経過した。
 不良らがいる場所は客が自由に座ってよい一画だ。とはいえ、ゴロツキまがいの男子らが好き勝手に騒いぐことは本来の用途ではない。当然、従業員は彼らに注意した。しかし効き目はなかった。店の者が対応しきれないならば警察を頼るところだが、警察沙汰にするのは大げさであると判断されたらしい。その判断は従業員がくだしたのか、警察が決めつけたのかは不明だ。決定打がないまま、月日が無為に流れた。
 この現状を聞きつけ、奮起した者がいる。その人物はたったいま、かの問題児たちに陳情を申し出た少年だ。彼は仙谷(せんたに)三郎という。現在は剣道部に所属する、正義感あふれる男だ。
 三郎はほかに三人のお供を連れてきた。いずれも彼と同じ高校の同級生、かつ武技を学んだ友人たち。
 三郎が友人を同伴した理由は不良の総数にある。相手方は四人。もし喧嘩沙汰になった場合、対等に渡り合えるよう対策した結果だ。もちろん話し合いで済ませたいと仙谷は考えていた。幸運にも不良は一人不在。荒事は回避できそうだった。
 三郎の提言を受け、不良が一人動いた。刈り上げ頭が特徴的だ。不良は立ち退きを指示した少年にせまる。その接近ぶりはまるでハグをするかのよう。しかしそんな好意的な感情はだれも持ち合わせていない。至近距離でにらみ合うことで、互いの胆力を試そうとしているのだ。
 三郎は不快を感じる間合いに入られる。後ずさりしたい体の衝動をこらえた。目の前にはニヤニヤした男子の顔がある。憎たらしいその顔に、強固な意志を見せつける。
「キミたちに居座られると客足が遠のくそうだ。お店の人が迷惑するから、どうか聞き入れてほしい」
「見返りは?」
「なに?」
「タダでどっか行ってもらおうってのはムシが良すぎやしないか?」
 不良は理屈に合わない自論を振りかざした。三郎は要求は飲めないとばかりに首を横に振る。
「こちらから渡すものはなにもない。お金が欲しいならバイトでもしたらいいだろう」
「そんなことするツラに見える?」
「どんな顔であろうと人は働けるとも」
 不良は苛立たしげに「んなことは聞いちゃいないんだよ!」と声を荒げる。
「この寒空で! 金もなしにどこ行けって言うんだ?」
「家や図書館、候補はいくらでも──」
「だから! ガラじゃないっつってんだよ!」
 刈り上げの不良が拳を振りあげる。攻撃動作を見た三郎は無意識に体を動かしていた。ガタガタと椅子のひっくり返る音が響く。
 椅子にぶつかったのは不良のほうだ。三郎はつい相手のみぞおちを殴打してしまった。その反応は彼の身に染みつく武芸の片鱗だった。剣道以外にも武術は体得していた。
「や、すまない。痛めつけるつもりはなかったんだが……」
 三郎は丁寧に詫びた。だがその律儀さがかえって不良たちの闘志を燃えさせる。残る二人も立ちあがった。この二人は仲間を転倒させた三郎めがけて接近する。それを体格のよい男子がさえぎる。
「わしも混ぜとくれや」
 三郎の友の一人は剛胆な笑みを浮かべた。彼も不良たちの標的となる。三郎は、最悪の事態に備えた仲間を動員せざるをえなくなった。その背後で、「はぁ」というべつの男子のため息が漏れる。彼は



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