拓馬篇前記-美弥11 電灯の明かりが必要になってくるころ、美弥たちはデイルとの雑談を切り上げた。きっかけは彼が「もう暗くなってきましたね」と帰宅をすすめたことにある。美弥と彼は同じアパートの住人だ。外が真っ暗で… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥10 部屋主が入れてくれた飲み物はすっかり冷めてしまった。彼は入れなおしを提案したが、そんなぜいたくな申し出は気が引ける。美弥と律子は常温のカフェオレを飲みほした。 カップを空ければ、べつの飲み… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥9 デイルは黙りこくってしまった。その風貌はさながらロダンの考える人である。口元への手の当て方や当てる手の左右がちがっていても、美弥はそう感じた。 彼は思考整理の時間を美弥たちに頂戴した。その… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥8 招かれた部屋は美弥の現在の住まいと変わり映えしなかった。同じ建物なのだから当然ではある。だが調度品まで同じだとは思っていなかった。美弥が引越してきた時に備え付けてあったものは、デイルの部屋… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥7 「あ、あの……」 美弥はぎこちなく声を出した。普段の声量に調整したつもりだが、のどがうまく開かない。スーツの男性は野良猫に夢中なままだ。 ふたたび声掛けをしようと口を動かす。だがまごついてし… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥6 美弥たちは喫茶店での歓談を惜しみつつ、帰路をたどる。帰宅ルートはなるべく大通りを避けた。この土地は都会ではないので、通行人とあまりすれちがわない道は簡単に見つかった。美弥たち姉妹の警戒心が… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥5 美弥たちがいるテーブル席は四人掛けだった。それゆえ美弥と律子の席には引き続きみちるが座り、通路をはさんだ隣りのテーブルに店長とマヨが着席している。みなが一様にアイス付きのホットケーキをナイ… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥4 「才穎高校ってね、おもしろい子が多いのよ。いま掃除してるマヨちゃんもそこの出身だし」 マヨと呼ばれた店員はモップを四角いバケツの中に浸している。マヨは手を止めた。ほほえみながら、美弥たちに向… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥3 美弥たち姉妹は律子の知人が所有する店へ訪れた。現在は昼の営業時間が過ぎている。準備中という名の閉店状態だ。帽子とマスクで顔を隠した律子はかまわずに店内へ入った。そうするように知人から言われ… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥2 律子が座卓に空のカップを置く。彼女は美弥とは別種の負の感情をまとっていた。二次被害を受けた妹を、ひたすらにあわれんでいるのだ。律子はとりわけ美弥の刺々しさを気にしている。「このへんの人たち… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-美弥1 「あ、部屋に入ったみたい」 美弥は自分の仮宿をかこむブロック塀に身を潜めている。自分が現在住むアパートには、さきほどまでいた人影があった。顔だけを出してみるとその姿が消えている。「いまのうち… 拓馬篇前記 美弥
拓馬篇前記-新人7 男は電話口で、自分が才穎高校の教員に相成ることを知った。また校長の厚意により、校長所有の宿舎に居を移すと決める。この決定は当初の未来予想になかったことだ。男は渡りに船の提案だと思った。高校… 新人 拓馬篇前記
拓馬篇前記-校長8 面接終了後、校長はデイルへ合格の一報を知らせるのと同時にアパートの見学日候補を伝えた。直近の土曜日はどうか、と言うと彼はすぐに「わかりました」と答える。「その日から入居してもよろしいでしょ… 羽田校長 拓馬篇前記
拓馬篇前記-校長7 校長はわざと面接時間に遅れさせた本摩を加え、デイルと話しこんだ。本摩は常識的な教師だ。彼が投げる質問はとても普通だった。 才穎高校に勤めたいと思った理由、他の業種から教職へ転向するきっかけ… 羽田校長 拓馬篇前記
拓馬篇前記-校長6 校長と大力会長が交わした約束の通り、大力の電話は三月になってからかかってきた。大力がくだんの教師志望者を鑑定したところ、大いに有望な若者だと評定がくだる。校長はほっと胸をなでおろした。これ… 羽田校長 拓馬篇前記
拓馬篇前記-新人6 男は大力会長の審査を経た。無事に才穎高校の採用試験にこぎつける。すでに大力のほうから大体の男の希望を学校へ伝えてあり、了解を得たという。なにからなにまで順調にいっていると男は感じた。だが油… 新人 拓馬篇前記
拓馬篇前記-新人5 イオという娘は教師を目指しているのだと大力が説明した。彼女はまだ高校生。いずれ教師業に就く際の参考として、妹の圭緒が二人の会話に同席することになった。──というのは建前だ。圭緒は父親がいた… 新人 拓馬篇前記
拓馬篇前記-新人4 「して、貴公はまことに繁沢のもとを離れるのだな?」 繁沢とは男の上司の姓だ。上司とその一家はながらく男とともに過ごしてきた。家族にも近しい存在──とは上司の一家が思っていることだ。「はい。も… 新人 拓馬篇前記
拓馬篇前記-新人3 目前の敵は二人。一人は天井裏に潜んでいた者、一人は廊下にいた者──こちらは一メートル足らずの棍棒を手にしている。 徒手で挑む者はさきほど不発だったハイキックを繰り出した。男は身を屈め、一気… 新人 拓馬篇前記
拓馬篇前記-新人2 男は座布団の上に正座する。ふかふかした座布団だ。座った感触はよいのだが、男は奇妙な感覚を覚える。��下に……だれか、いる?) 気配は畳の下、つまりは床下にある。何者かがいるであろう位置は座… 新人 拓馬篇前記