2017年10月30日月曜日 拓馬篇前記ー実澄8 実澄がレイコに手作りをすすめたのはレジンアクセサリーだった。雑貨屋では既製品が陳列され、その片隅に曜日限定の体験コーナーが設けてある。そこで特製の樹脂小物を作るつもりだったが──「これ、か… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月29日日曜日 拓馬篇前記ー実澄7 実澄たちは一時間近く喫茶店で過ごした。店を出ると外は薄暗くなっていて、街灯がともりはじめる。雪は止みつつあったが寒さは増していた。 青年に抱えられたレイコは寒そうに体をちぢこめている。実澄… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月28日土曜日 拓馬篇前記ー実澄6 実澄はレイコの興味から外れた小瓶を手に取る。「どこの親も願掛けはするのかしら。銀くんがその指輪にこめた想いのままの子に育ってくれて、親御さんは喜んでるでしょうね」「そう、ならいいが……私は… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月27日金曜日 拓馬篇前記-実澄5 「ね、銀くんの親御さんはどんな人か、聞いていい?」「私を生んだ親……はわからない」 孤児──この質問はまずかったかな、と実澄は後悔した。「だが育ての親……のような方はいる」 青年はそれまでの… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月25日水曜日 拓馬篇前記-実澄4 実澄たちのテーブルにようやく飲食物が届いた。さすがに応対する店員は嫌疑をかけてきた少女とは別の人だったが、どこかよそよそしい。やはり一悶着あったために場の雰囲気を悪くしたのだろう。実澄はこ… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月24日火曜日 拓馬篇前記ー実澄3 実澄とレイコはそれぞれ注文するものを決めた。実澄が店員を呼ぼうとするとレイコが「おにいちゃんのぶんは?」とさえぎった。「追加で注文できるから、それで選んでもらいましょ」「うん……」 あまり… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月23日月曜日 拓馬篇前記ー実澄2 実澄は喫茶店へ歩を進めていたが、青年に抱えられるレイコの足を見るとべつの行き先を思いつく。「靴、買ったほうがいいのかしら」 少女は靴下を履いているが、足をちぢこめていた。毛布代わりにくるま… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月22日日曜日 拓馬篇前記-実澄1 寒々しい曇り空を中年の女性が見上げた。天気予報によると降水確率は半々。家を出た時よりも雲は濃くなったように見える。��降ってくる前に帰りましょ) スノーブーツを履いた足を心持ち速くうごかし… 実澄 拓馬篇前記
2017年10月21日土曜日 拓馬篇前記ー校長4 「二人部屋か……」 校長は総合病院の病室前にいた。壁にあるネームプレートは二つ。当たり前だがどちらも男性の名前だ。以前、八巻を訪ねた時は個室だった。今日も一対一で話せると思ってきたのだが、同… 羽田校長 拓馬篇前記
2017年10月20日金曜日 拓馬篇前記ー校長3 校長室に一年生の担任が二人招集された。一人は仙谷を受け持つ男性教師。彼は功刀(くぬぎ)といい、普段は物腰柔らかな性分だった。今は男性らしい剛健さをまとっている。もう一人は久間という女性教師… 羽田校長 拓馬篇前記
2017年10月19日木曜日 拓馬篇前記-校長2 床一面に絨毯を敷いた校長室に四人の男女がいる。一人は中年の校長だ。横幅が十二分にある机に両肘をつき、手を組む。その校長に対面するのが三人の若者。学生服を着た彼らは横一列に並び、直立している… 羽田校長 拓馬篇前記
2017年10月18日水曜日 拓馬篇前記-校長1 授業のない休日、学校には部活動にいそしむ生徒が集まる。その様子を一人の中年が見ていった。彼は才穎高校の羽田校長。業務はないが、部活動中の生徒を観察しに学校に訪れる。生徒の活き活きした姿は校… 羽田校長 拓馬篇前記
2017年10月17日火曜日 拓馬篇前記-拓馬5 拓馬はヤマダを無事に家まで送りとどけた。懇意であるヤマダの家族とは会わず、すぐに帰宅する。玄関には白黒の飼い犬が待っていた。ほどほどに撫でてやる。皮膚に近い内側の毛は温かいが、外側の被毛は… 拓馬 拓馬篇前記
2017年10月16日月曜日 拓馬篇前記-拓馬4 拓馬は自宅のリビングにいた。心境は上の空。床に座り、ボーダーコリーにそっくりな雑種犬とたわむれている。 白黒の中型犬は拓馬の投げたボールを追いかける。ボールを口にくわえては拓馬のもとにもど… 拓馬 拓馬篇前記
2017年10月15日日曜日 拓馬篇前記-習一3 習一は目的地のデパートに着いた。だが仲間は定位置のフードコートにいない。��今日はべつの場所で集まってるのか?) 場所替えは好都合である。このフードコートは習一には居心地が良くない。無料で… 習一 拓馬篇前記
2017年10月14日土曜日 拓馬篇前記-習一2 習一は他校の不良を仲間にしている。彼らはおよそ一か月前、打ちしおれた習一の前に立ちはだかった。その目的は金品。のちに事情を聴くと、彼らの目には習一の顔つきや身なりが金持ちの子に映ったらしい… 習一 拓馬篇前記
2017年10月12日木曜日 拓馬篇前記-習一1 ──今度の期末考査、受けなかったら留年ですよ。 不快感を顔いっぱいに漏らす女教師が警告した。通知相手は実力考査をすっぽかした男子生徒。名前を小田切習一といった。彼は放課後に呼出しを受け、空き… 習一 拓馬篇前記
2017年10月12日木曜日 拓馬篇-* ★ * 日が暮れゆくころ。男は店舗と住居が混在する通りを進んだ。すれちがう人々は暖かい衣服に身を包んでいる。男は寒暖の感覚にうといが、周囲の者に合わせた格好をしていた。しかしそれでも男は好奇と畏… 拓馬 長編拓馬
2017年10月10日火曜日 拓馬篇前記-拓馬3 老警備員は感謝なのか愚痴なのかわからない話をくどくどと述べた。おおむね三郎たちの行動を肯定していることは伝わる。推定年齢七十歳ばかりの警備員は「老いぼれだけで若者の集団をどうにかできるわけ… 拓馬 拓馬篇前記
2017年10月10日火曜日 拓馬篇前記ー拓馬2 三郎は刈り上げの不良に危害を加えた。身を守るため、という正当な理由はあったが、この状況において正論はなんの免罪符にもならない。なし崩しに乱闘へ発展した。 場所固定されていない机と椅子が、少… 拓馬 拓馬篇前記
2017年10月6日金曜日 拓馬篇前記-拓馬1 寒い時期だった。気軽に外を出歩くには時期尚早。遊びに出かけるとしても快適な場所を求めるのが人情だ。その思いはなんぴとであろうと尊重されるべきである。だが──「申しわけないが、よそへ行っても… 拓馬 拓馬篇前記