2020 - 木瓜咲く

習一篇-4章6

「さっきの女の子はどこへ行ったんだ?」
「この町のどこかにいると思います」
 習一を起こしにきた少女はすでに別行動をとっている。予想範囲内のこととはいえ、習一は釈然としない。
「オレとすこし話した…

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習一篇-4章5

習一が起きたとき、掛布団の上に寝そべっていた。室内はあかるく、日はすでに上がっている。いまは何時だろう、とうつろな目でベッド棚にある置き時計を見たところ、針は七時半を指していた。朝一の授業…

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習一篇-4章4

4夜に帰宅
 習一は実家に到着した。まずは家門の外から家の様子をさぐる。居間には電灯が点いている。家主はもう帰宅した頃か、妹は学習塾に行っていて家にはいないのだろうか──と習一は家族の所在を考…

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習一篇-4章3

習一は喫茶店に居続けた。時間を経るごとに店内を行き交う人が替わっていく。客の顔ぶれが変化するたび、自分が店の利益にならない存在であることを察した。
 空席が目立つ時間帯は習一のような客はいて…

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習一篇-4章2

「そのときのおれは地面に倒れてて、オダさんがやられるとこを直接見れてなかったんスけど、ほかの二人は現場を見てました。だからあいつら、おれよりずっとビビってるみたいで」
 うつむいていた田淵が上…

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習一篇-4章1

終業式を終えたあと、習一はどの生徒より早く校舎を離れた。外で待っている銀髪の少女と早々に合流しておこうと考えたからだ。真夏の真昼間の外で、長時間の待機は過酷である。熱気の苦手な習一ならば一…

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習一篇-3章7

習一はサンドイッチのうちツナ入りのものをはじめに食べた。マヨネーズであえたツナとしゃきしゃきしたレタスの食感がある。味そのものはありふれたもののように感じる。だが口の中に旨みが染みわたった…

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習一篇-3章6

窓を叩く音が鳴った。物音で起こされた習一は窓を見る。昨日に引き続き、またも銀髪の少女が窓の縁にいた。あの調子だと今後も窓が彼女の玄関口になりそうである。
��鍵、開けとくか?)
 いまのところ…

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習一篇-3章5

習一は昼食を食堂で食べた。昼休みがもはや終わりにちかづいていたせいか、盛況なイメージのある食事処はすいていた。
 その後の習一は授業の終わりまで座席に居ついた。途中で授業を抜ける選択もあった…

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習一篇-3章4

習一は教室を出た。目下の移動先は校舎の外である。おそらく外に、今朝、習一を学校へ導いた少女がいる。彼女は習一の昼食を用意すると言った。だが部外者が校内へ入ることは一般的にはばかられる。事務…

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習一篇-3章3

午前の授業がおわった。生徒たちは昼食をとりにかかる。その際、習一の席の周りにいた生徒は自席を離れるか、別室へ逃げていった。皆、問題児との関わり合いを避けている。習一はそれが当然のことだとし…

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習一篇-3章2

「出席日数をかせいだほうがいいんだって」
 その提案は銀髪の教師が言い出したのだろう。教職に就く者らしい意見ではあるが──
「いまから? 遅刻確定じゃねえか」
「ケッセキよりはチコクがいいんでしょ…

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習一篇-3章1

光葉と名乗る男が現れた翌日、習一は退院となる。先日もらった花束は結局家へ持ち帰ることにした。習一としては花なぞ余計な荷物になるだけだと思うが、院内で花束を捨てられる場所が見つからず、家で処…

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習一篇-2章7

習一は明日には退院である。この病棟へくることはもうない。これで見納めだと思い、内部の様子を散歩ついでに見てまわった。
 壁にかかった油絵の絵画を鑑賞したのち、片側一面がガラス窓で覆われた廊下…

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習一篇-2章6

次の日も習一は空調のととのった病棟内で運動と休憩を繰り返した。散歩をしたのちに寝台でクールダウンし、柔軟体操をする。そういったサイクルをこなすうちに疲れが出てきて、習一は横になった。床頭台…

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習一篇-2章5

入浴後、習一は寝台の上で一休みした。することもないので借り物の電子端末を操作する。昨夜から端末に内蔵されたパズルゲームでちょくちょく遊んでおり、その続きにいそしもうかとした。だがまだ電子書…

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習一篇-2章4

翌日、習一は点滴痕に絆創膏を貼り、院内の散歩をした。この散歩は体力作りのためである。また、点滴の除去を担当した看護師の発言も多少は関与する。管の入っていた部分の血が固まるまで、入浴は待った…

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習一篇-2章3

習一は薄くてかるい布団で自分の視界をおおっていた。徐々に寝苦しくなり、布団をかぶってから数分も立たないうちに布団をどける。
��あー、むしゃくしゃする)
 だれへ向けた怒りなのかわからない感情…

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習一篇-2章2

習一は教師がもってきた端末をさっそく操作してみようと手をのばした。だが物でいいように操れる男児だと見做されるのが不服だ。教師が去ったあとで操作しようと思い、まずは教師との話をおわらせようと…

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習一篇-2章1

銀髪の教師はひととおりの自己紹介を習一の母に行なった。西洋人らしきフルネームと、才穎高校の教職員という身分と、露木という警官と知り合いであることを述べる。名前以外は習一が事前に知りえていた…

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習一篇-1章6

私服の医者が去ったあとの室内に、軸の太いペンが一本落ちていた。習一と母の私物ではない。落とし主は状況的に、若い医者の可能性が高い。習一は医者が忘れものを取りにくる未来を見越して、一時的にペ…

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習一篇-1章5

習一が予期せぬ男性が入室してきた。母の態度をかんがみるに、この頼りなさげな男性は母と病院で何度か顔を会わせている医者のようだ。母には持病がなく、個人的に通院する動機がないため、おそらく両者…

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習一編-1章4

昏睡状態から習一が目覚めた日の夕食も翌朝の朝食も、メニューはペースト状の粥であった。こんな食事では食べた気がしない。だいたい、乳幼児か嚥下の不自由な老人が口にする食べものである。習一が食事…

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習一編-1章3

習一は母親には自分の入院の経緯をたずねなかった。母が知りうることはしょせん他人からの又聞きである。まだ医療関係者に聞くほうが正確なことを知れると思った。ゆえに母が「なにかしてほしいことはあ…

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習一編-1章2

白いコートの男は習一の注目があつまったにも関わらず、彫像のごとくたたずむ。そしてその男の片方の手は、習一には視認できなかった。
��手が、ない……?)
 袖に片手をひっこめているようには見えず…

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習一篇-1章1

少年は目をあけた。オレンジ色のまじった、あたたかみのある色合いの壁が見える。その壁が天井だとわかるのにいくらか時間がかかった。この部屋が少年の自室ならばすぐに天井だと認識できただろう。
��…

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お知らせ

25-4-20.旧ブログからの引っ越しリンク公開。目次記事のリンクは未修正。お品書きだけは早々に直します。

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