11月 2017 - 木瓜咲く

2017年11月30日木曜日

拓馬篇前記-美弥1

「あ、部屋に入ったみたい」
 美弥は自分の仮宿をかこむブロック塀に身を潜めている。自分が現在住むアパートには、さきほどまでいた人影があった。顔だけを出してみるとその姿が消えている。
「いまのうち…

拓馬篇前記 美弥

2017年11月27日月曜日

拓馬篇前記-新人7

男は電話口で、自分が才穎高校の教員に相成ることを知った。また校長の厚意により、校長所有の宿舎に居を移すと決める。この決定は当初の未来予想になかったことだ。男は渡りに船の提案だと思った。高校…

新人 拓馬篇前記

2017年11月26日日曜日

拓馬篇前記-校長8

面接終了後、校長はデイルへ合格の一報を知らせるのと同時にアパートの見学日候補を伝えた。直近の土曜日はどうか、と言うと彼はすぐに「わかりました」と答える。
「その日から入居してもよろしいでしょ…

羽田校長 拓馬篇前記

2017年11月23日木曜日

拓馬篇前記-校長7

校長はわざと面接時間に遅れさせた本摩を加え、デイルと話しこんだ。本摩は常識的な教師だ。彼が投げる質問はとても普通だった。
 才穎高校に勤めたいと思った理由、他の業種から教職へ転向するきっかけ…

羽田校長 拓馬篇前記

2017年11月22日水曜日

拓馬篇前記-校長6

校長と大力会長が交わした約束の通り、大力の電話は三月になってからかかってきた。大力がくだんの教師志望者を鑑定したところ、大いに有望な若者だと評定がくだる。校長はほっと胸をなでおろした。これ…

羽田校長 拓馬篇前記

2017年11月21日火曜日

拓馬篇前記-新人6

男は大力会長の審査を経た。無事に才穎高校の採用試験にこぎつける。すでに大力のほうから大体の男の希望を学校へ伝えてあり、了解を得たという。なにからなにまで順調にいっていると男は感じた。だが油…

新人 拓馬篇前記

2017年11月20日月曜日

拓馬篇-1章1

複数の机と椅子が整列した教室があった。そこに四人の若者が鎮座する。教卓には四人を見張る白髪まじりの中年が一人いた。中年へ、もっとも体格のよい男子が話しかける。
「先生、どこまで書いたら帰らせ…

拓馬 長編拓馬

2017年11月19日日曜日

拓馬篇前記-新人5

イオという娘は教師を目指しているのだと大力が説明した。彼女はまだ高校生。いずれ教師業に就く際の参考として、妹の圭緒が二人の会話に同席することになった。──というのは建前だ。圭緒は父親がいた…

新人 拓馬篇前記

2017年11月18日土曜日

拓馬篇前記-新人4

「して、貴公はまことに繁沢のもとを離れるのだな?」
 繁沢とは男の上司の姓だ。上司とその一家はながらく男とともに過ごしてきた。家族にも近しい存在──とは上司の一家が思っていることだ。
「はい。も…

新人 拓馬篇前記

2017年11月17日金曜日

拓馬篇前記-新人3

目前の敵は二人。一人は天井裏に潜んでいた者、一人は廊下にいた者──こちらは一メートル足らずの棍棒を手にしている。
 徒手で挑む者はさきほど不発だったハイキックを繰り出した。男は身を屈め、一気…

新人 拓馬篇前記

2017年11月16日木曜日

拓馬篇前記-新人2

男は座布団の上に正座する。ふかふかした座布団だ。座った感触はよいのだが、男は奇妙な感覚を覚える。
��下に……だれか、いる?)
 気配は畳の下、つまりは床下にある。何者かがいるであろう位置は座…

新人 拓馬篇前記

2017年11月14日火曜日

拓馬篇前記-新人1

広大な瓦屋根の塀が続く。いったいどれだけの敷地面積があるのだろう、と考えながら、一人の男が黒い車の後部座席で鎮座していた。一八〇センチ以上ある身であっても車内はゆったりとした空間だった。
 …

新人 拓馬篇前記

2017年11月13日月曜日

拓馬篇前記-校長5

羽田校長は八巻の見舞いから学校へもどると、さっそく大力会長に電話をかけてみた。大抵は彼の部下に繋がる。今回も事務員か秘書かは知らぬ女性が出て、今日は会長と話はできないと断られた。
『会長のお…

羽田校長 拓馬篇前記

2017年11月12日日曜日

拓馬篇前記-八巻5

「──と、いう次第です」
 八巻はギプスで包まれた左足をクッションの上に投げ出しながら、自身の負傷の経緯を語り終えた。聞き手は校長。八巻が想定外の骨折をしてしまい、入院を継続するという連絡を受…

拓馬篇前記 八巻

2017年11月11日土曜日

拓馬篇前記-八巻4

八巻は走行禁止の病棟内を急いで移動した。八巻が「妖精さん」と命名した謎の女性は行方が知れない。それでも諦めがつかなかった。妖精さんのことで頭がいっぱいになり、彼女が向かったであろうロビーを…

拓馬篇前記 八巻

2017年11月10日金曜日

拓馬篇前記-八巻3

��半年……長かったな)
 八巻は怪我の治療のために半年の期間を休職した。我ながら時間を浪費してしまったと感じる。その大半は妖精さんと名付けた謎の美女にうつつを抜かしていた。教師の体面上、とて…

拓馬篇前記 八巻

2017年11月9日木曜日

拓馬篇前記-八巻2

八巻が事故に遭った後の約一か月間、夜中に異変が起きた。眠る八巻に何者かがぺたぺたと触ってくるのだ。触れる箇所はきまって顔。それ以外の箇所は触られても気付かなかったのかもしれない。当時の八巻…

拓馬篇前記 八巻

2017年11月7日火曜日

拓馬篇前記-八巻1

休日の昼下がり。八巻は病衣の上にカーディガンを羽織った姿で院内の中庭を歩いた。葉のない木々が生え、通り道が灰色のアスファルトで舗装された殺風景な場所だ。ほかに延々散歩しても人の迷惑にならぬ…

拓馬篇前記 八巻

2017年11月5日日曜日

拓馬篇前記-実澄11

実澄は青年に出会った時のことを娘に話した。ベランダから転落する少女を助けた、たくましい体つきの若者だったと。弱者の窮地を救ったヒーローだが、本人はその巨躯や怪力を良く思っていないことなども…

実澄 拓馬篇前記

2017年11月5日日曜日

拓馬篇前記-実澄10

実澄は青年の道案内兼、服装の助言を続けた。はじめは他人に怖がられない色選びを主題にした。徐々に普通のコーディネート話へ変容する。実澄は青年の髪がグレーなことから、色相に迷った時に灰色で固め…

実澄 拓馬篇前記

2017年11月2日木曜日

拓馬篇前記-実澄9

雑貨屋での利用料金と商品代はレイコの母が支払った。実澄は自分が代金を負担するつもりだったが、喫茶店でのレイコの飲食費を肩代わりしたことを指摘され、その帳消し案として押し通された。「本当なら…

実澄 拓馬篇前記

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25-4-20.旧ブログからの引っ越しリンク公開。目次記事のリンクは未修正。お品書きだけは早々に直します。

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